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国東半島芸術祭

|国東半島芸術祭の概要

前回の続きになります。

アートについての講座の後に国東半島芸術祭の概要についての説明を受けました。

国東半島芸術祭は2011年に大分県の方から国東半島をアートによって発信できないかという打診があり、3年の歳月をかけて開催されたそうです。

国東半島に伝わる文化の中に「鬼」の伝承があります。

仏教寺院において毎年1月に行われる法会である「修正会」も国東半島の六郷満山の寺院で行われるものは

修正鬼会」といって仏教儀式の中に農耕儀式や庶民信仰を含んだ儀式があります。

「鬼」の存在は決して「悪」というわけではなく

共同体の外からやってくる見知らぬ「もの」として時には祖先や守護者として信仰をされるています。

こうした「まれびと信仰」という考えが国東半島芸術祭の出発点になっているそうです。

また、国東半島には「神仏習合」という日本古来の宗教観が生きていることからも

国東半島という土地には認識外のものを容認し受けれる性質があるのではないかと僕は感じました。

こうした土台にアーティストが入り作品を作成していくプロジェクトが6つのエリアで実施されていきました。

芸術祭は「パフォーマンスプロジェクト」「レジデンスプロジェクト」「サイトスペシフィクプロジェクト」の3つの柱から出来ており

今回はその中でも サイトスペシフィク=その場所特有の プロジェクトである、6つの作品を巡る現地講習も受けてきました。

各エリアは並石(なめし)、成仏(じょうぶつ)、岐部(きべ)、千燈(せんとう)、香々地(かかぢ)、真玉(またま)という名称です。

エリア間は結構離れているので2日間かけて国東半島を巡りました。

|並石プロジェクト

最初に並石エリアに向かいました。

作品が設置されている「並石ダム」は、写真の上奥に見える大きな横穴にかつて鬼が住んでいたという伝承がある場所の麓になります。

ダムをぐるっと1周すると作品を2つ観ることができます。

作者である勅使河原 三郎さんが初めてここを訪れた際に感じた感覚を呼び起こすための仕掛けとして、ガラスの塔を作ったそうです。

「月の木」 勅使河原 三郎

光の加減や時間帯角度によってダムの水面にかりそめの月が映し出されます。

そこから20分ほど歩いた先に次の作品があります。

この日は風が強くて寒かったのですが、もう少しすると桜も咲いて散策するには良い時期になると思います。

「光の水滴」 勅使河原 三郎

作品の鑑賞後に昼食を食べたダムに隣接している飲食施設には勅使河原さんの描いた作品のスケッチや会期中に設置されたホワイトボードの壁面をそのまま活用されていました。

|成仏プロジェクト

次に向かったのは成仏エリアです。

作品は成仏岩陰遺跡の壁面に設置されています。

この作品は作者である宮島 達男さんの現代の磨崖仏を作りたいとい思いから始まったプロジェクトです。

作品はワークショップ形式で作成され地域の方々、7〜30歳の若者、中国・韓国からの留学生の計100名が作成しています。

「Hundred Life Houses」 宮島 達男

宮島さんの作品にはデジタルカウンターが用いられ1〜9の明滅で「輪廻」を表現されています。

コンクリートの外枠に彫刻で模様を施し、デジタルカウンターの明滅のスピードを自身で設定することにより

実際に作品へその人の魂を閉じ込めることで作品は完成します。

また、作成した自分の作品がどこに設置されているのかが分かるようになっていて

再びこの場所に戻ってきて自分の分身を確認することができるようになっています。

作品があるこの地に人が入れ替わり訪れ、99人の気配と共に自身を見つめ直すこともこの作品の一部なのだと感じました。

余談ですが、会期中この場所にはトイレが無かったため、地域の方が簡易トイレを作成したそうです。

なかなかしっかりとした作りで、こうした訪れる人に対する気配りや優しさはこのあと各地のエリアで目にすることになります。

|岐部プロジェクト

1日目の最後は岐部エリアに向かいました。

岐部という地域にはかつて多くの隠れキリシタンが暮らしていたそうです。

このエリアの作品は作者の川俣 正さんが日本人として初めて聖地エルサレムを巡礼した「ペトロ・カスイ岐部」の足跡に感銘を受け、ペトロ・カスイ岐部記念公園の裏山の森の中に作品を設置しました。

「説教壇」 川俣 正

10人の製作チームが2週間をかけて作品を製作して、期間中には毎日のように地域の方が差し入れをしていたそうです。

作品が10年20年と残っていきながらこの場所を共有し、森と一体化していくそのプロセスが重要視されている作品でした。

地域の方が1年に一度防腐剤を塗布しており、地域とずっと関わっていく作品なんだなと感じました。

|千燈プロジェクト

2日目は千燈エリアからスタートしました。

千燈という地域は国東半島に根付く「六郷満山文化」を開いた仁聞菩薩が始めに寺を開き、そして入寂した地としての歴史があります。

会期中に鑑賞者が実際に歩いたルートである旧千燈寺跡を辿り、不動茶屋、千燈岳へと向かっていきました。

旧千燈寺跡では半肉彫りの仁王像が佇み、仁聞菩薩の墓と伝えられる仁聞国東塔やに五輪塔群などが残されています。

会期中に受付として利用されていた不動茶屋には国東半島芸術祭の概要や作品設置の秘話などが壁面に書かれていました。

この地域に設置された作品は630kgの重量がある鉄の彫刻だったため、設置がとても困難で

飛行機案・ヘリコプター案などを検討したそうですが、どれも設置が不可能という結果になりました。

そこで、地域の椎茸農家の方が持っていたワイヤーでの運搬技術を利用し運搬する方法を採用し、無事に設置が完了したというストーリーがあります。

その際に試運搬で利用された700kgのダミーちゃんというコンクリート像が今でも不動茶屋に置かれています。

運搬がどのくらいの距離だったのかというと不動茶屋から作品の設置場所まで見上げて作品がこんなに小さく見える位置になります。

千燈岳を登って実際に作品が設置された場所へ行くと、足がすくむ程の高さで遠くに広大な景色が広がっています。

作者であるアントニー・ゴームリーさんは1970年代にインドで仏教を学んで以降、自身をかたどった作品を作り続けていて、自身の体に石膏を塗り固まるまでの間に瞑想をし精神を集中させたものが作品となっているそうです。

「ANOTHER TIME XX」 アントニー・ゴームリー

長い年月をかけて鉄で出来たこの像が錆び朽ちて自然に還るそのプロセスまでが作品とされています。

また、六郷満山文化の中核であるこの地に作品を設置することに対して是非が問われて続けています。

ゴームリーさんは「作品がその土地に対する鍼のような役目を果たし、その土地の滞っていた流れを促す役目がある。」と言っていたそうです。

是非は立場によって変わると思うのですが、作品がこの場所に立ち地域の変化を見つめ続けることはずっと変わらないでいてほしいと感じました。

作品を観た後はさらに少し上に登ったところにある五辻不動尊にお参りをしました。

本当に岩壁の中をくり貫いたような場所に佇む岩屋で、しんとした空気に思わず背筋が伸びました。

|香々地プロジェクト

次に向かったのは香々地エリアです。

作品が設置されている長崎鼻はもともと耕作放棄地で、ここは長い年月をかけて地域の方が菜の花・ひまわり・コスモスなどの季節の花を植える活動を続けて、今では色に溢れた綺麗な景色が広がる場所へと生まれ変わっています。

「念願の木」

「見えないベンチ」 オノ・ヨーコ

オノ・ヨーコさんが作成した2つの作品のうち「念願の木」は同じものが十和田市現代美術館にもあります。

月桂樹の木に願いを書いた短冊を結び、1年に一度アイスランドにあるイマジン・ピース・タワーに世界中から短冊を集め永久保存し、下からライトで天を照らしてできた光の塔で空へ届けるられます。

もう一つの「見えないベンチ」は国東半島の石から作成されており、同一の石からベンチとプレートができています。

プレートには詩集「グレープフルーツ」より抜粋されたメッセージが刻まれ、ベンチに座りインストラクションの形式で書かれた文章を読みながら景色を感じる作品になっています。

ベンチは岬に13箇所設置されていて全てを回るのには2時間かかるそうです。

次の作品に向かう途中海辺を歩きました。

長崎鼻の海は大分市・別府市内で見る海と違って青がとても綺麗でした。

海辺を歩いた先に見える小高い丘の上にチェ・ジョンファさんの作品は現れます。

「色色色」 チェ・ジョンファ

畑の中にあるピラミッド型の花壇で、岬に季節の花が咲く頃この作品もこの大地と一体化して作品として完成します。

まだ土壌が慣れてきていないこともありこの時には花の数も少なかったのですが、地域の方々の手によって四季折々の花が植えられ季節によって色が変化しながら、この地にずっと関わり続けていく作品なんだと感じました。

|真玉プロジェクト

最後に向かったのが真玉エリアです。

真玉と言えば「日本の夕陽百選」にも選定されている真玉海岸の夕日が有名な場所です。

このエリアではチームラボが制作したデジタルインスタレーション作品が元縫製工場に設置されています。

「花と人、コントロールできないけれども、共に生きる-Kunisaki Peninsula」 チームラボ

実際に国東半島に自生する30〜40種類の花を映し出しており、5分で1ヶ月、1時間で1年間の国東半島の花の移り変わりを鑑賞できる作品になっています。

作品の映像に人が近づくと花が咲き渡ったり散ったりを繰り返し、鑑賞者のふるまいの影響を受けながら変容し続け二度と同じ映像は見れないそうです。

デジタルインスタレーションで実際の人と自然との関わりを表現されているこの空間は、とても居心地が良くもあるのだけれど自然へ対する自身の関わり方を考えさせられる装置のようなものにも感じました。

|感想

役1ヶ月間、国東半島芸術祭を通じてアートプロジェクトがその地域にもたらした変化というものを学び

1つのプロジェクトに様々な人が関わり交わりながら、少しずつ前進していく姿を垣間見る事が出来ました。

国東半島芸術祭では「おせっ隊」と呼ばれるボランティアの方が多数いて作品の製作中のサポート、また会期中には鑑賞者の方をお接待し数々のおもてなしをしていたそうです。

また、そのおもてなしも次第に各エリアで競い合うようになり、おもてなし合戦のような形になっていったと聞きました。

国東半島芸術祭では以前、アートマネジメント講座の考察でも書いていた「競争と共創」が巻き起こっていました。

現地講習の際には当時を知る方にも会う事ができ、今でも作品を中心に地域の方が協力し共働し続けているということも教えてもらいました。

アート作品が地域にもたらす変化は立場の違いによって必ず是非が分かれるということも分かりました。

しかし、作品の設置によって地域のみんなが自分たちの暮らす土地について、真剣に悩み、考え、話すようになっていったのは間違いなく良い変化なのではないかと僕は思います。

地域にアート作品がやってきたという、一見すると些細な事柄から思いもよらない共働が生まれるアートプロジェクトの未知数な可能性を知りました。

国民文化祭をきっかけに玖珠町でもこうした変化を生み出せるプロジェクトを実施したいと改めて思い直す事ができました。

地域編集ユニットの実験記録

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